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「決められぬ名に」

 投稿者:青嵐 疾風  投稿日:2009年 1月20日(火)22時54分43秒
返信・引用
  名前を付けて欲しい、と言われた。

「……名前――?」

少し話があると言って室内に入って来た男は、白い眉を寄せて反芻する老人……天賢に向かって頷く。

「……何故、この老いぼれに言うのかね」

使わないに近い執務机に肘をつかせ、目の前に立つ男へ「翁」は問う。
何、否、誰の名前なのかは分かっていた。此処最近はずっと、気を揉んでいた事柄だ。分からない筈は無い。自分の事でも無いのに地賢の世話焼き振りはよく見て取れるし、それを眺める自分とて平時のように落ち着きがあるといえば少しばかり嘘になる。だが、だからこそ男が開口一番に言った台詞を聞き返さずには居られなかった。
最も年を重ねているからではないだろう。礼儀に欠かないとはいえ、そこまで年功序列を気にし過ぎている訳でもない。
名前を付ける才覚が無いとも思えない。目の前に佇む男の才知の程は、天賢もよく知っている。

それに――名前を付けるというなら、その権利は第一に「彼等」にあるのだから。

天賢の尤もな問いに当然のように男は予想していたらしく、僅かな沈黙を置いて口を開いた。

「……本来なら、私達が付けるべきという事は承知しています。初めは、そのつもりだったのですが探してみると――」

逆に思い付き過ぎて、困ってしまった。

真剣に考えた結果なのだろう。性格上、疎かになどしない事は分かっている。僅かに目を伏せ、ですからと続けた男の思惑を天賢は瞬時に理解した。

「それならばいっそ、名付けをこの老生に押し付けようという魂胆かね?」
「……有り大抵に言えば、そうなります。申し訳ありません、ですが『翁』の名付けなら納得してくれると思うので……」

少々意地悪く言ってみると、苦笑気味で男が乗って来た。納得、というのは言うまでもなく、男自身とその伴侶の事なのだろう。

恐らく、此処で断るという選択肢は考えていないだろう。表情で分かる。あくまで物腰は柔らかく、しかし卑屈さは感じさせず。天賢自身、それが満更でもない事を分かっているからこその態度。流石、と思ってしまう。否、それ以上にとも思う。

わざと悩むように沈黙を置いたのは、年甲斐らしくないせめてもの抵抗。空気が揺れ、風が通り過ぎていくと天賢は皺だらけの顔を緩ませた。

「……これは、随分な大役を任されたものだ。良かろう、今から考えておく……期待はせぬようにな」
「期待しております」

言った端から、重ねるように言葉が積まれる。これも、分かってやっているのだろう。さしもの天賢も負かされたように思えてしまい、自然に笑い声が漏れてしまう。
目の前で穏やかに微笑む男を見ながら、天賢はまた一つ楽しみが増えたと思う。仮定など「理」には無意味なものだが、この男が自分の縁者だったら良かったのにと、らしくない事さえ思い浮かべてしまう。此方の方が、実質の血縁よりも誇らしく思うというのに。
椅子に深く身を沈め、さて、と思い直す。男が悩んだように、自分も悩む事になりそうだ。生まれた暫く後でも良いのだろうとは思うが、臨月はもう迫って来ている。決めた時には、直ぐに知らせよう。

――だが、その機会が訪れる事は無かった。


(PL:はい、何連続してんのって感じですみません実は昨日辺りにサクッと書き下ろしました……/貴様…/時間軸的には、前の「風が~」よりも何週間か以前って事になっています。登場人物が地味に対。そして本人(疾風)不在。当然の如く改行は適当です。……またお目汚し、失礼しました/汗)
 
 

「風が生まれた日」

 投稿者:青嵐 疾風  投稿日:2009年 1月15日(木)00時56分48秒
返信・引用
  落ち着いた色調の一室。
破格の待遇ではないかと思われるようなその場所で、寝台に上半身だけ起こした状態で女は備え付けられた小さな窓に手を掛ける。微かな音がして窓が開かれると、季節独特の暖かな風が部屋の中に吹き込んで来た。

柔らかく頬を撫でて来る爽風を感じていると、窓とはちょうど反対側にある扉がノックされる音がした。

「あ……どうぞ」
「失礼します。……身体に障るわよ」
「すみません……つい、風が心地良かったので……」

女が入室を促すと、扉が開いて初老の女性――「地賢」が部屋の中に入って来る。
地賢は吹き込んで来る風から窓が開いている事に気付き、たしなめるように注意する。ほんの少しだけの時間のつもりだったのだが目の前に居る人物……地賢に反駁するような事でも無いからと、女は手を伸ばして再び窓を閉め直した。ぱたり、と窓が閉じられると、風の流れもそこで止む。

窓がきちんと閉じられた事を確認し、女は地賢に改めて視線を移す。普段は穏やかな目元が、今は少々の不安に彩られていた。

「あのっ……」
「身体に障ると言ったでしょう。……焦らなくても」

寝台から出て詰め寄りそうな女の様子に、地賢は先程と同じ口調で返す。またもや注意された女は、申し訳無さそうに顔を伏せた。

――仕方の無い、事だけれど。

いつもならそうそう取り乱さない筈の女の性格を知る地賢は、内心でそう呟く。女の今の心境を、地賢は今までの経験からよくわかっていた。
地賢は部屋の中に入り後ろ手で扉を閉めると、寝台に居る女の傍まで近付く。扉を開けた時は足やらで開けるなどという暴挙は当然しない為に片手だったが、今はその両腕に柔らかな毛布に包まれているとある存在を抱えていた。
あまり急ぎ過ぎない歩調で寝台まで寄り、地賢は女にその存在を包んだ毛布ごと渡す。

「……先程は、少しだけしか見られなかったでしょう。一通りの健康チェックは済ませました。……待たせて、しまったわね」

言いながらも、地賢は女がそれを聞いていないだろうと判断を付ける。今、女が専ら関心を向けているのは自分の言葉ではなく、手渡されたその存在なのだと。
女の口から、嗚呼、と吐息が零れる。そして次の瞬間には、自身の両腕で優しくもしっかりとその存在を抱き締めた。

「……私の赤ちゃんっ……あの人の、子……」

確かめるように、噛み締めるように、女は抱き締めたその存在――生まれて間も無い赤子を抱いて言葉を零す。その両目からは、止め処無く悲しみから出たのではない涙が流れていた。
十月十日、己の胎に宿っていた命が此処に在る。自分の、そして愛しい者の血を受け継ぐ大切な一つの生命が。今、自分の両腕の中に在った。
其処に確かにある温もりを実感して、またはらはらと涙を零すが何とか指で目元を拭うと女は地賢を見る。寝台の上に上半身を起こしている状態なので、地賢を見上げる状態だ。

「あ、有難う御座います――何から何まで……本当に、何と御礼を申し上げたら……」
「いいえ。私はただ自分がやれる事をやっただけの事。一番頑張ったのは、他ならぬ貴女自身なのですから」

その後少し診た『翁』――天賢には礼を言うべき所はあるのかもしれないが、少なくとも自分は感謝されるような事はしていないと地賢は首を左右に振る。ただ少しばかり医術の心得があって、同じ女性として放っておけなくて、出産の手助けをしただけだ。
幾らこのアスクレピオス公国が他国に比べて優れた医療技術を持っているとはいえ、流石に出産行為が気楽に出来るものではない。母体の負担は半端ではなく、言い難い苦しみを感じたのは何に置いても目の前に居る女なのだろう。

「それに――母が、子の前でそれで如何するのです。不安にさせるでしょう」
「……はい」

無事に出産出来た事。それを、誇りに持って良いのだと。口には出さずとも伝わる地賢の思いに、女は涙ぐみながら頷く。つい先程のような不安の陰は既に無く、そこには「母」の顔があった。
地賢はそれに目を細めて頷き返し、女の腕に抱かれて眠る赤子を見る。ほんの少し前までは地賢が抱いていたのだから、ましてや自分が取り上げたのだから、当然初見ではない。女もそれに釣られるようにして、まだ首も座っていない我が子に目を戻した。

「……顔は、貴女似ね」
「男の子、の筈なのですけれど」

今は眠っている子が、生まれたばかりの時の顔を思い出して言う。
その内豊かに生えて来るだろう薄い黄土色の髪も、今は伏せられているが垂れ気味で冴えるような蒼色の瞳も――顔のパーツは全て、そのまま写したのではないかと思えるくらいに母親と似ていた。
性別は間違っても女ではなく男の筈で、このまま女のように育ってしまわないかと一抹の不安を抱きながらも女は「でも」と逆接の言葉を紡ぐ。

「……でも、きっと性格はあの人に似ると思うんです。あと――」

性格など生まれではなく育ちで決まるのだろうとは分かっているものの、女はそう言わずにはいられない。
そうして言葉を続けようとした所で、不意に一陣の風が吹いた。突然の風に、女と地賢は目を閉じる。

吹いたのは、強くも穏やかな風。窓はきちんと閉めていて、扉も閉めてあったので風……ましてや強い風が吹き込んで来る筈は無いのに、その風は確かに吹いた。……まるで、この世に生を受けたばかりの生命を祝福するように。

風が止んで女と地賢は目を開け、ほとんど反射的に女の腕に抱かれた赤子を見つめた。
吹いて来た風の所為だろうか。先程までは寝ていた赤子が起きている。否、単に起床しているだけではない。己に向けて吹かれた一陣の風に、返事をするかのように微笑っていたのだ。

そして、その微笑った貌は――女にとっては子と同じくらい愛しい夫、子にとっては父が、ふとした時に見せる表情に、如何しようも無く似ていた。


(PL:またもや失礼します、最早何も言うまい……/何/改行は適当です。例の如く。ぶっちゃけ父母エピソードだけで一つの短い話が出来そうで……お目汚し、失礼しました/礼)
 

グラン・ギニョール~ラプンツェルの繭~

 投稿者:ヴェガ・ビー・7  投稿日:2008年12月16日(火)00時06分0秒
返信・引用 編集済
  この世は所詮一夜の舞台、春の夢のようで、儚く覚めるがサダメ。


此処は暗く、穏やかで、あたたかい闇の底。
何も見えず、何も聞こえず、何も感じない。
此処はいつも静かで、此処はいつでも平穏。

わたしはとても疲れていたの。
この世界は騒がし過ぎる、欲望と血と硝煙と、その音はわたしを追い詰める。
純金のような輝かしき革命は未だ遥か遠いようで、浄化の夢は未だ適わず。
けれどかの女王は囁く、早く、早くこの世の制圧をと。
狂気の種子は甘美に芽吹き、その香りは傷口から紅い水が溢れるに似て。
美は全てを統べるべき主、それでいて重く拘束する足枷。
わたしがねがい、しかし憎悪するもの。
嫌悪する程に、たまらなく愛しく想えるもの。

けれど、けれど。
何かが狂ってしまったの、多くの出会いを経て、わたしが得たのは使命が霞む程の温もり。
今や愛は別の角度へ捻じ曲がり、わたしは歪んでいくしかなかった。
好きなものが多過ぎる、優しいものはあたたかすぎる。
だから優しいものは恐ろしい、わたしの決意を萎えさせる。
存在意義が薄れたわたしに、居場所なんてない。
あのひとの腕の中を望んでも、冷たい運命の指がわたしを捉え、その爪で貫き放さない。
わたしは人形、操り人形、かの女王のコッペリア。
女王の糸が途切れれば、きっとわたしは終わってしまう。
愛を置き去りにしたままで。
降伏は死の裏表、背中合わせな鏡越しの殺意。
境界線の曖昧な、脆く危ない薄氷の上の綱渡りのごとく。

玉響と泡沫の狭間より、今こそ殺された過去と記憶の復讐が始まった。

わたしには、もう夢見る事しか出来なかった。
だから、魔力の全てを解き放った。
夢のままに焼け落ちる為に。
夢と共に、金色の焔で燃え尽きた。
心はただ紅蓮のままに。
そうすれば、きっと綺麗な思い出になれるから。
あのひとの、そして彼女達の。

だから、ね。
目覚めた時、がっかりしたよ。
また覚めてしまった、現世は夢、夜の夢こそ求めるマコトなのに。
永遠は紫の蜘蛛の巣のように、わたしをまた捕まえた。
不死なる自身を恨んだ。
魔女たるこの身を、呪った。

其処は、深い森だった。
深緑の園、古の神々の都、守られた聖域、約束の地。
偶然か必然か、己の魔力の暴走で、わたしは因縁深きその島に転移していた。
そしてその森の奥、わたしは再び出会った。
可愛いわたしの子、漆黒の申し子。
今は繭となり、いずれ生まれる夢を見るもの。
でも、わたしはそれが悲しかった。
なぜ目覚めてしまうの。
どうしてこんな世界に。
こんなにも醜い現世を欲するの。
夢こそ救い、乱されず苦しまされず、マドロミこそが至高の幸福だというのに。
手を伸ばして、指で触れて、しっとりと濡れた繭の奥、眠るきみに。
わたしは、語り掛けた。

きみは答えてくれたね。
すべてはあなたに逢うため。
ぼくを産んでくれたあなたにふれるため。
闇にしずむあなたのゆめを叶えるため。
それがぼくの欲する世界。

此処にも、こんなにもあたたかい、痛いやさしさがあって、わたしは泣いた。

そんなわたしを、きみは包み込んでくれた。
繭の間から伸びる無数の黒い触手。
わたしは包まれ、引き寄せられ、やがて中へと引き込まれて。
そして、同化していく。
ゆっくりと、確実に、心地良く取り込まれていく。
此処は真っ暗だ。
此処は暗く、穏やかで、あたたかい闇の底。
何も見えず、何も聞こえず、何も感じない。
此処はいつも静かで、此処はいつでも平穏。
やっぱり、此処も闇だ。
わたしを阻害し、拒み、遮断する、世界とわたしの間に広がる闇だ。


いいえ、違う。


世界は偽物の闇に包まれている。
勿論わたしも、でも、本当の闇は汚くなんかない。

此処はわたしを望み、願ってくれる箱庭。
起きている事を拒んだわたしを、包み込んで眠らせてくれる揺り篭。
闇、それは楽園の代わり名。
闇、此処は母なる体内。
わたしは此処で眠る。
今は、眠る。

眠りの中で、少しだけ考えが変わってきたんだ。
きみとひとつになっていき、きみのこころが伝わってきて、わたしの心と溶け合って、少しずつ変わっていく。
もういちど、生まれたい。
わたしは、もう一度生きたい。
真っ赤な夕日を眺めたい、水のせせらぎを聞いていたい、新緑の香を胸いっぱいに吸い込みたい。
軋む骨が、脈打つ心臓が、流れる涙が、生命の存在を自覚させる。
思い知らされていく、忘却の彼方へ追いやろうと押し殺した渇望。
生きることへの、強烈な飢餓。
ああ、わたしときみは、こんなにもうつくしいせかいを欲している。
欲していたんだね、今一度、闇に還ってみてようやく気付いた。
金色ばかりが美ではない、美しさは此処にもある。
そして、わたしはそれを欲する。
何て浅ましいんだろう。
そして。
そして何と。
この純粋な欲望は、なんて美しいんだろう。

ああ、大切なひとたちと、また一緒に月を見上げたい。
もう一度、もう一度だけでも。
いとしいあのひとに抱き締められたい、抱き締めたい。
わたしは魔物だけれども。
わたしは。
あたしは。
アタシは反逆者だけど。
だからこそ。
アタシは世界を許したい。
アタシはわたしを赦してあげたい。

だからやっぱり、アタシはこの世を手に入れなければいけない。
今こそ合図を、戦火を狼煙に、腐れた悪夢に宣戦布告を。
アタシは、わたしの意志を持って、あたしの想いでこの世界に敵対する。
金と銀の月が沈まぬうちに、堂々巡りな不幸の連鎖に致命傷を与える為に。
そして葬った暁には、アタシはこの世界に新しい、相応しい名前を付けるのだ。
まるで仰々しい、安っぽい舞台のような今の世に。
残酷な舞台のような世界に、相応しい名を、闇を与えよう。

その為にも、今は眠るの。
いずれ、もうすぐ、再びアタシは産まれる。
ねえきみ、わたしと共に行こう。
力を貸して、世界を美しき闇で飲み込む力を。
咎も罰も全部無にする力を。
そして、世界をまるごと愛する力を。
アタシもきみにあげるからね、嘘偽りを壊す絶対の術を。
その為に蓄えよう、温存しよう。
今は夢を見るの、新しき創造を夢見るの。

それまで演じるがいい、忌まわしき現世よ。
さあ、音楽が聞こえてきたわ。
銃声と悲鳴の音色がはっきりと、隊列を組んで紅も鮮やかに。
さあさあ、足踏み揃えて偽りの正義と歓喜を歌っているが良い。
いずれアタシとこの子に踏み潰されるその時まで。
崩壊と破滅の足音は、すぐ側まで迫っているから。
それに気付かず愚かしく舞い続けよ、哀れ哀れな道化共。
狂い狂え、この世は所詮グラン・ギニョール。
生半可な破滅願望に甘ったれた者達に、真実の絶望を捧げよう。
そして齎すは新世界、それは、本物の闇。
教えてあげる、真の闇はあまりに美しいということを。
慈悲深き本当の女神は、闇の巣箱に棲むということを。

わたしは、黄金の闇。
あたしは、最後の魔物。
アタシこそは、世界の敵。


我々は皆Beautiful Dreamer、たとえ無意味であろうとも、夢の先を継ぐもの達。


でも、アタシは愛を忘れない、忘れたくない。
この声に翼を与えて、新月の夜に放ったなら、あなた達まで響くだろうか。
この長い、長い長い夕闇の色した髪を伸ばして夜風に送れば、あなたまで届くだろうか。
夢の残り香に魂を込めて、この命を喰らうものに託したとしても、あなたはゆるしてくれるのかしらね。
どちらにしろ天の涙は月の雫となって、潤された闇の繭はもうすぐ目覚める。
髪を伝って、あなたよどうか此処まで来て。
アタシを見つけて、どうか、お願い。



革命前夜に、ただ、あなたに逢いたいのだから。
ね、いとしきひと。




今宵再び、満月の下で逢いましょう。





(PL:こっそりこっそり書き込んでみたり…ヴァイスPL様の素敵投稿を邪魔して大変申し訳ありません。ご指摘受け次第、即刻削除しますので…お目汚しですが、お嫌でなければ読んで頂けたらとても嬉しいです)
 

炎の終焉・2

 投稿者:ヴァイス・ローゼ  投稿日:2008年12月 4日(木)19時49分26秒
返信・引用
  《 第一章~夢の続き 》


 ガチャリッと音を立てて扉が開け放たれると、その中から茶髪で緑色の瞳を持った青年がひょっこりと顔を出して現れた。青年の姿が視界に入った途端に喜びの表情を浮かべる少年は、久しぶりの再会を嬉しむように彼の身体に抱き着いた。

「お帰りなさい。アイリル兄さん」

「ただいま、ヴァイス。良い子にしていたかい?」

 赤い瞳を爛々と輝かせる弟の身体を受け止め、兄アイリルヴィーンが優しく問い掛けると、ヴァイスは元気に頷いた。

「お帰り、アイリルヴィーン」

 息子の帰還をずっと待ち侘びていた父親サディスティックは、ご満悦な笑みを浮かべながらアイリルヴィーンを出迎える。

「長期の仕事は無事に終了したようだね。怪我はなかったかい?」

「ただいま、父さん。もちろん。怪我どころか掠り傷すらしてないよ」

 息子の言葉に「そうかそうか」と嬉しそうにはにかむサディスティックは両手を大きく広げた。

「それじゃあ、今日は豪華な料理とワインでパーッと祝おうじゃないか。ヴァイスもワイン飲むかい?」

「父さん。忘れたの?ワインは二十歳になってからだよ?」

「ははは。ヴァイス、それは子供を騙すための嘘だと言ったじゃないか。今夜は葡萄に混ぜて飲もうか。前回は失敗してしまったが今度は大丈夫。見つからないさ。……ああ、父と息子二人で一緒に酒を飲み交わす夢が叶うとは!父さんは嬉しいよ。さあ、今夜はとことん飲み明かそうじゃないか」

 すると。

「どうやらまだ懲りていなかったようだな?前回も言ったがヴァイスは子供だ!まだ早過ぎるだろう?」

 背後から低く鋭い声を出して睨みつける真っ赤な長髪の女性は、アイリルヴィーンとヴァイスを産んだ二児の母フライツァイトだ。腕組みをしながら見据える彼女、だがサディスティックは何としてでも夢を叶えたいとここぞとばかりに踏ん張る。

「今日くらいはいいだろう?何てったって今日は特別な日。ヴァイスの10歳の誕生日じゃないか。そんなわたしの唯一の楽しみを邪魔する君は鬼だ」

「………鬼、ね。言ってくれるじゃないか。キャロル、裏の地下倉庫にあるボトルワイン……いや、地下倉庫ごと燃やし尽くしてこい」

 フライツァイトの声に反応して現れたのは、馬ぐらいの大きさで真っ赤に燃え上がった炎の一角獣。その場にいればどんな物でも燃やし尽くす炎は、熱いどころか何も燃やさずにただ静かに燃え続け、その形を維持していた。

「冗談だよ!冗談!あっははははっ!」

 自慢の酒コレクションを破壊されるのは御免だと、焦ったサディスティックは大笑いするしかない。

 キャロルと呼ばれた一角獣は、フライツァイトが作り出した使い魔。本来彼女は闇の魔術も扱えたが、両親の片方が炎の能力者だったため、その力を半分引いている。そのため本来作り出されたキャロルの属性は炎と闇。見た目は炎属性に見えるため、いくら魔力が強いアフロディーテ国の団に属する者でも簡単に気付くことが出来ない程に完璧に作られていた。
 フライツァイトが闇の魔術を扱えることを知る者は、アフロディーテ国の長とも言える第一位大臣マチルダ・グランディス、サディスティックとごく一部の裏の者だけ。だが、血が繋がっているはずのアイリルヴィーンだけはその真実を知らぬまま現在に至っている。

 久しぶりに目にする両親の相変わらずのやり取りを懐かしみながら、弟に視線を戻すアイリルヴィーンはにこりっと微笑んだ。

「ヴァイス。久しぶりにお兄ちゃんと一緒に遊ばないかい?新しい魔術を教えてあげるよ?」

 その言葉を聞いてすぐにヴァイスは「行きたい」と即答する。すぐさま母親の許可を得ようと、一触即発寸前の母親に構いもせずに声をかけた。

「ねぇ、お母さん。外に行ってもいいでしょう?」

「……ん?ああ、行ってこい。でも、遊ぶなら結界の中だ。絶対に外や街にヴァイスを連れて行くな。アイリルヴィーン」

「うん、わかってる」

 母親の念入りの言葉を素直に従うアイリルヴィーン。
 だが、彼の心中では何故ヴァイスが自分達と同じ様に街に出かけたり、他の者達と接触や交流をしてはいけないのか納得できなかった。両親の言い分では、ヴァイスはあまり身体が丈夫ではないため、指定された場所以外の場所に行くと喘息を引き起こしてしまうからと言うものだった。だがどこをどう見てもヴァイスの身体は健康そのものにしか見えない。両親は何か自分に隠しているのではないかと、疑問に思うことがしばしばあった。

「………」

 なかなか行こうとしない息子達に、父親サディスティックはわざと咳ばらいをしながら二人の背中を押す。

「父さんも一緒に行くよ。アイリルヴィーン、ヴァイス。父さんのとっておきの魔術を披露してあげ一一一っ!?」

「私は父さんと一緒に夕食を作る。だからお前達は思う存分に遊んで来い。………まさか、この私に一人で夕食を作れとは言わないだろう、なぁ?サディスティック。ああ、それと怪我だけはするなよ?二人とも。………アイリルヴィーン。お前も仕事帰りなんだからあまり無理はするな。煉獄の団長はお前しかいないんだからな?」

 サディスティックの首根っこを引っつかみながら不適な笑みで笑いつつ、息子達に気遣いの言葉を掛ける。しかし煉獄の団長と言う言葉に、何故か苦笑を浮かべるアイリルヴィーンだった。

「さあ、行こうか。ヴァイス」

「うん、行ってきます」

 息子達が出て行った後で、不快溜息を漏らすフライツァイトにサディスティックはもう反論をした。

「どうしてだい!?久しぶりに再会した息子と過ごす、楽しい休日ライフを邪魔するなんて!何かわたしに恨みでもあるのかい?」

「帰還したばかりなんだ。少しはゆっくりさせてやれ。それにヴァイスはずっと家の中にいるんだ。たまには私たちの顔を見ずに息抜きがてらに遊ぶのもいいだろう」

「しかし」

 まだ何か言い足りない彼の前に、台所にあった包丁を突き付けながら。

「玉葱のみじん切り」

「………はい。でも、良かったよ。あれから何も起きなくて。赤ん坊の頃からずっとヴァイスを育て上げてきたが、わたし達の想像以上に立派に成長しているよ」

「ああ、そうだな……」

 過去に赤ん坊の頃に見せた闇は、現在すくすくと育つヴァイスが一度も扱う姿も、おかしな言動も見当たらなかった。

(あの頃の私が見た魔術は本当に赤子のヴァイスが放ったものなのか?それとも私の勘違い………?)

 深く考えようとフライツァイトは思考を張り巡らせるが、突然の「あ!」と叫ぶサディスティックの言葉に我へと返ってしまった。

「そんなヴァイスが、ヴァイスがいつしか不良になってしまったら!わたしは!わたしは悲しい!」

「貴様は黙って玉葱を切ることに集中しろ!」


(続く)
 

炎の終焉・1

 投稿者:ヴァイス・ローゼ  投稿日:2008年12月 4日(木)02時48分50秒
返信・引用
  《 序章~プロローグ 》


 太陽として輝く ゙ お前 ゙ と月として闇夜に輝く ゙ 僕 ゙ 達は、光と闇のような存在だ。

 光はけして闇を欲しいとは思わないが、反対に闇は光を欲する。

 明るい陽の下で生き続ける植物は、立派な美しい花に成長するが、暗い陰の下で生き続ける植物は立派な美しい花を咲かせられない。

 陰の下で生き続ける植物は陽を求めたりしない。それは奴らの行く末を知っているからだ。陽の下で生きる植物は必ずしも美しい花を咲かすということはないことを。陽の下で生き続ける植物が、押し潰され、もぎ取られ、引きちぎられる様を。

 それでも僕は陽を欲し続けた。闇であり陰である僕が一度手に入れたはずの光を、陽を、あいつは奪ったのだから。

 だから僕はお前を闇へと突き落とす。

 所詮作り物のお前が本物の僕に勝つことなど出来ないのだから一一一。


***********************

 とても懐かしい夢を見た。

 仕事から帰って来た兄貴が俺に魔術を教えてくれる夢。

 でも不思議なことに兄貴との夢はそれだけで、それ以前もその後の夢の続きも思い出も、いくら眠り続けても見ることは出来なかった。

 意地になって仕事中や任務中に昼寝をしても、やっぱりその先の夢の続きを見ることが出来ず、あまりの長い睡眠に頭を痛ませたり、リリィや各団の団長達にも注意されたことがあった。

 それでもどうしても兄貴との思い出を思い出したくて、思い出す法が゙夢゙と言う幼稚的な方法しか思い付かなくて、毎日毎日ずっと眠り続けた。

 そうすることで少しでも兄貴失踪の手掛かりが見つかるかもしれない。何故か兄貴の話になると沈黙を守り続ける両親からも何か聞き出せるかもしれないと思ったからだ。

 だから俺は眠り続けた。意識を失い、兄貴との思い出をあの夢の中で探せるのなら、苦手な酒を何度も飲んだこともあった。本当にそこまでして何がしたいんだろうと、俺は本来の目的を忘れてしまったこともある。

 俺は何を目的にして生きていたんだ?

 俺の、目的は一一一。

 目的は一一一。

『アイリル兄さんを殺した奴を探し出して殺す……でしょう?』

 一一一ああ、そうか。思い出した。
 俺は、そのために今まで生きてきたんだっけ一一一。

『違う。貴方はそのために生まれたわけではない』

 遠退く意識の中で誰かが俺の視界に入り込んでくる。

 視界がすぐに途切れてしまったために確かめることが出来なかったが、あの真っ赤な炎は、どこかで見た気がする一一一。


(続く)
 

思いきっての投稿です/笑

 投稿者:ヴァイス・ローゼ  投稿日:2008年11月 7日(金)18時28分54秒
返信・引用
  「待て!貴様何を考えて一一一!?」

 一一一始めから全て「なかった」ことにすれば良かったんだ。

「やめな一一一」

 私は私の「願い」の為に。

「貴方は何を一一一」

 多くの者達を殺めた。

「フライツァイト!貴方がやっている事は闇の一族に対する裏切り一一一」

 両親、親戚、友人を含めた闇の一族に関わる全ての者達を一一一。

「一一一………」

 自らの手で一一一。

 一一一………………。

 声はいつしか声ではなくなり、何も聞こえない「無音の世界」となった。
 残っているのは私とあの子だけ。
 私の脳裏に先程の声が何度も響き渡る一一一。

『闇の一族に生まれし女は、けして子供を二人産んではならない』

『代々産まれた二人目の子供は強力な闇の力を宿して産まれる。……つまりその赤子は悪魔の子供。赤い瞳がその証拠だ』

『その赤子は望まれない子供だ』

『さあ、フライツァイト。お前の手でその赤子を一一一殺せ』

『さあ一一一』

『殺せ』
『殺せ』
『殺せ』
『殺せ』
『殺せ』

 殺せ、殺せ、殺せ、殺せ、殺せ、殺せ、殺せ、殺せ、殺せ、殺せ、殺せ、殺せ、殺せ、殺せ、殺せ一一一一一殺せ!!

『………それはできない………』

 一一一ピチャンッ!

 私を現実に引き戻したのは岩肌から流れ落ちる水の音だった。
 暗闇に横たわる両親達を見ても、涙など流れるはずがなかった。
  これは私が決めたこと一一一。
 そう、涙など流れる筈がない。

 一一一ピチャンッ!!

 代わりに泣いてくれたのは、岩肌から流れ落ちる水。
 闇の一族は私の代で終わった……全て終わったのだ。

「だからもう、私達一族が人を殺めることなどない。……そろそろ終わらせよう。さようなら、父様、母様一一一!?」

 決意を決め、言葉にして口ずさんだ時だった。

「!?」

 ハッとした表情で周囲を見渡せば、先程自らの手で眠らせた両親達の体が忽然と姿を消していた。
 正確には『無くなった』が正しいのかもしれない。
 暗闇にも関わらず、闇の力を持って産まれた者達はどんな暗闇でも明かりなど必要なかった。
 だから今この場で起きている『出来事』が、ハッキリと私の目で見ることが出来た。

「これは一一一?」

 両親や親戚達よりも強力な力を持って産まれた自分でもわかる程のその強力な力は、岩台にいる赤子が放った魔術だった。
 地面に眠る両親達の身体が、みるみるうちに地面の暗闇に喰われるように奈落の闇へと消え去っていく一一一赤子は笑い声を上げながら楽しそうにそれを眺めていた。
 中には今目覚めたばかりの者もいたが、突然の出来事にただ成す術もなく闇に喰われていった。

「お前は、誰だ?」

 我が子に対して思わず「誰だ?」と問い掛けてしまう自分に思わず苦笑してしまう。
 その問い掛けに赤子はピタリッと笑い声を止めれば、私の問い掛けに答えるように周囲の闇が私に向かって襲い掛かって来た。

「ほう?面白い。私を闇に喰わすつもりか?」



※※※※※※※※※※※



「一一一結局、私はあの子を殺せなかった。そして今も」

「でも君は賭けているんだろう?この子が同じ過ちを繰り返さないことを」

「ああ」

 ベットの上で深い眠りにつく小さな少年の頭を撫でながら、フライツァイトは父親サディスティックの言葉に苦笑交じりの表情で答えた。

「もう二度と繰り返させはしないさ」

 その時、ピクリッと少年の瞼が微かに動いた。暫くすると、うっすらと赤い瞳が開けばその瞳がこちらを見ていた。

「おはよう、ヴァイス」

 サディスティックの言葉に少年ヴァイスはしばしキョトンとした表情を浮かべていたが、うっすらと笑みを浮かべて微笑んだ。それから何度かサディスティックか息子に話しかけるが、相変わらず息子の反応がおかしいことに気がつけば、フライツァイトは「ああ」と苦笑する。

「そうか、耳が聞こえないんだな?」

 封印する際に封印者の身体の一部に障害が起きる封印術の効果により、どうやら耳が聞こえなくなったようだ。
 サディスティックはにっこりと微笑むとフライツァイトに向かって言った。

「大丈夫。この子は立派な子に育つよ。私達の子供だろう?」

「……ああ、そうだな」


 この子は、私達が作った「特別な子」なのだから。





※※※※※※※※※※※


 登場キャラ
 ヴァイス
 フライツァイト(母)
 サディスティック(父)

 ヴァイス父を登場させながらヴァイスくんの過去を書きました。
 誤字・下手文章はちらほらあるものの、そこはまあ……皆さんの暖かい心で見逃して下さい(笑)←
 

「非時香果は甘く」

 投稿者:青嵐 疾風  投稿日:2008年10月30日(木)22時32分5秒
返信・引用
  陽が沈み、冴えた月が空を照らす頃。厳粛さすら含んだ静寂の中、微かな虫の声と流れ落ちる水の音だけが時間の経過を表している。

その中で――本来なら居なければならない筈の社から出て、『彼女』は居た。

季節は既に秋を越えて涼しいと言うには苦しくなっていて、更には少しでも触れたのなら凍えそうなまでの温度をしているだろう事を容易に想像させる滝の傍であるにも関わらず、狩衣姿の彼女は身を震わせる素振りなど一切見せていない。華奢とも言えるその身体の背筋を、弓の弦のようにぴんと伸ばしてそこに佇んでいた。
腰元まで伸ばして高く結わえられた紫紺の髪は重力に逆らう事無く上から下に流れ、身じろぎ一つせぬ彼女に代わり微かに動きを示す。

そうして峻厳とした山独特の空気と共に、幾時居ただろうか。普通でなくとも何の変哲も無い動きとして済まされていただろう微風が吹いた時、彼女は緩やかに視線を移動させた。

碌な整備などされている筈も無い滝の周囲は背の高い草々が好き勝手に生え、慣れていなければ簡単に草に足を取られてしまうだろう。それなのに、変化と云えばほんの少し風が吹き抜けただけなのに、まるでその弱い風と共に現れたかのように――『彼』は居た。
少なくとも、周囲に溶け込むような外見ではない。それどころか彼女とある意味では同じように、確実に浮いてしまうだろう。

「探していた?」
「別に」

異質な情景の中、交わされたのはその辺りの小石のように然して珍しくも無い言葉。驚きもせずに問い掛けて来る彼女の視線を受けながら、彼は簡潔過ぎる返答を投げ捨てるように放ちそこから動き出す。気配もほとんど、否、一切無いかのように、ただ闇夜に浮き立つ色だけを移しながら。

彼が滝の傍の岩場まで歩み寄り、そこに腰を下ろすと、彼女もその傍らに腰を下ろす。どちらも、場を阻害させるような音は立てない。流れ落ちる滝の音に、立てた音は溶けていく。

如何かしたのか――そんな他愛も無い問い掛けを放とうとした所で、彼女は彼が何かを包んだ小さな風呂敷を持っている事に気付いた。同時に、そこから漂って来る香しい匂いにも。
彼女がその風呂敷包みに視線を移した事に合わせたのかそれともただの偶然か、彼は風呂敷包みを膝の上に置くと、するすると包みを開け出した。

「……橘」

それは何だと彼女に問われる前に、彼が小さく素っ気無く単語を呟く。
風呂敷を解いて現れたのは、数個の丸い橙色の果実――ちょうど今の時期、実が熟すものだった。
彼はその実の一つを手に取ると、同じく風呂敷包みの中に入っていた小刀を空いた手に持って皮を剥き出す。ともすれば前髪を切ってしまいそうな程、刃と顔の距離が近い。しかしながら、それでいて危なっかしいという訳でも無い。単に、そうなるだけだというように。皮が剥かれる度に、周囲にほんのりと芳しい香りが広がっていった。

剥き始めて、果実の半分くらいの皮が剥かれた所だろうか。彼女は暫し様子を眺めていたが、一向に止める気配の無い彼に向かって口を開く。

「橘の実は、食べられない筈だけれど」

彼女が言うように、橘は鮮やかな橙色の実を付け、香しい匂いを放つが食用に向いている訳ではない。皮は和え物に使う事があるものの、果実は酸味が強過ぎて食べられないのだ。

よもや、それを知らない彼ではあるまい。そこから出た彼女の問い掛けに、彼は暫くの沈黙を得てから言葉を紡いだ。

「この実は――甘い」

静寂の中を一筋の矢が過ぎるような声が紡がれる。女性のように高くは無いが、不思議とよく通っていた。
やがて全ての皮が剥き終わり、薄皮と中身のみを残した実が出来る。それを彼は二つに分け、その内の一つを彼女に差し出した。

伸び切った髪の隙間から覗く、切れ長で彼女よりも少しだけ色の淡い双眸が向けられる。おそらく彼にとっては、見えるかどうか危うい――否、見えてはいないであろう距離。
彼女はそれに応じるように差し出された片割れの実を手に取り、そこから更に食べやすいように一房分けてからゆっくりと口に入れた。

「――……勿体無い事を」

彼女は小さく笑みを浮かべ、微かにそう零す。
流れ続く家系柄、彼と同じく似たものを持つ彼女には分かった。言う事でわざわざ、そうでなかったものの性質を変えた事に。

その口に含まれた橘の果実は――とても、甘かった。

(了)

続けて失礼します。ヴェガさんの素敵小説が消えてしまわれた後にまた御眼汚しをしてしまい申し訳無いと思いつつ……松風弟と丁さんのSSをば。随分前に雑談所に投稿して、そこから削除したものを再アップ。改行は勿論適当、ぶっちゃけ中身はほとんど変えていません、何ヶ月前のだろうと思いつつこれはひどい(笑)
消した松風弟プロフの特徴を暈し……すみません、前もアップしたものですが丁さんを勝手に使ってしまい申し訳ありません;その他、苦情承ります。寧ろ皆様の作品も載せれば良いと(黙
では失礼しました。
 

早速で失礼します。

 投稿者:青嵐 疾風  投稿日:2008年 5月15日(木)21時42分39秒
返信・引用
  一番乗りー……という戯言は置いておくとして。管理人様、この度は素敵な場所を作ってくださり有難う御座います。参加者を慮った配慮、ただただ頭が下がるばかりです。この場を御借りして、礼を申し上げる事を御許し下さい(礼

では、以前消したブツを早速。……変更?してませんよ面倒ですもの(最悪!)

―不理解と相違―

……嘗て、同じ家に生まれて同じ血を継ぎながら、ほぼ全てが違い決別してしまった兄弟が居た。
再び会い見えたのは、おそらく偶然だったのだろう。否、必然だったかもしれないが、それを確定させるものは無い。

考え方の違いから、袂を分かってどれ程経っただろうか。それぞれの道を歩んで、二度と交わる事など無いだろうと思っていた。

兄がこの世界の理について究め、それなりにその類の世界で知られるようになった頃。名を何処からか聞き付けた――当時三賢人の一人として有名だった究韵という魔術師が兄の方へ訪ねて来た時、随行してきたらしい弟子達の一人に他ならぬ弟の姿を見つけた。

酷く久々の兄弟の再会。しかし、感激の涙に咽ぶような事は無かった。道を違えながらも、歪んだ「不死」にさせられても、気に懸けていた兄に弟は他人を貫き通した。全くの初対面だと、特別親しくも無いというように。袂を分かった時と……否、それ以前と同じように、「兄」を「兄」とすら思わず慕う事は無かった。其処には既に、「兄弟」という繋がりは無くなっていた。容姿も似る所無く違っていれば、弟は偽名を使っていたので、「兄弟」なのだと察する事が出来た人間はそういないだろう。

究韵の目に留まって研究所へ出入りするようになっても、兄が究韵の弟子とはならなかったのはそれが原因だろう。反対こそしていなかったが、無関心を装って紡がれる言霊は明らかな拒絶を示していた。
そしてそれは、最後まで――そう、兄が究韵との交流が疎遠になり、弟が神器封印の一柱となった時まで続いてしまった。何処までも、和解という事は無いままだった。

理解出来ないままだった。兄弟の関係を振り返った時、そう兄は言うだろう。たとえ一方的な拒絶だとしても、理解してやれなかった事を悔いていると、兄らしい事が出来なかったと。そうして、理を最も解していながら、理に反された身で存在し続けている。

ならばそれに対し、弟は如何言っただろうか。おそらくは何の変哲も無い言の端の中に、言霊を紡ぎ隠してしまっただろう。しかし、これだけは間違いない。……決して、兄と同じ事は言わないであろうと云う事は。

(終)

天賢のじーさまこと松風兄と、弟の関係性SSです。究韵の名前出していますけれど、名前だけだからセーフですよね……?;駄目でしたら是非とも仰って下さい。寧ろ天賢は御前の発想ではないという突っ込みも御待ちしています。
では乱文、失礼しました(礼
 

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